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第2章 想像のおもちゃ箱 (2022/08/07)

町で一番の宝石屋になるという、小さな夢を持ったワンディは、夢に向かって勉強をはじめていた。勉強といっても、何か特別な教科書があるわけではなく、教えてくれる人なんてものは、まわりを見ても誰もいなかったので、自分なりにやってみればいいと考えていた。

グランサムの町の中心地にふたつの宝石屋があった。どちらのお店もそれなりに賑わいを見せているお店だ。ワンディはふたつの宝石屋に、時間を見つけては、何度も足を運んでいた。もちろん、お客としてではなく、お店の雰囲気や商品の飾り付け、どんなものが売られているのかを調べるためだった。

たまに、どんなデザインが今、人気なのか?とずんぐりで肉づきのいい体に髭ずら顔の店主やもう片方のお店、こちらはひょろっとした感じでやせている上に首も長くて背も高い、大きな眼鏡がまったく似合っていない店主に聞いても、客とは思ってもらえず、相手にされることはなかった。

そんな様子を見ていた、ワンディの母、ソフィーは、自分の息子が、宝石屋を目指そうと頑張っている姿をとてもうれしく思っていた。玄関の扉が勢いよく開いて、楽しそうに帰ってくる日は、いい聞き手となり、玄関の扉が静かに開いて、しょんぼりして帰ってくる日は、「今日はどうだった?」とみずから声をかけ、励ましていた。ソフィーは、ワンディの良き相談相手となっていた。

ワンディは、いろいろと試行錯誤を重ね、ソフィーにアドバイスをもらいながら、最初の4つのデザインを紙に書き上げることができた。ニュートンピアス・・・・イチゴのヘタをかぶった一粒ネックレス・・・バナナのネックレス・・・フルーツスムージーピアス。

どれも、ワンディがテーマにしている、フルーツをモチーフにしたものだった。さっそく、身のまわりにあるもので試作品を作ってみることにした。家にあったロウソクや木を削って形を作り、割れたグラスや食器をさらに砕いてストーンに見立て、細めのワイヤーをチェーンの代わりにしてみた。仕上がりのイメージはぶさいく極まりなかったがまんざらでもなかった。

試作品を見たソフィーは「可愛いじゃない!」と喜びの声をあげ、親友のフレディも素直に欲しがったことに、ワンディは心が踊るような、そんな小さな手応えさえ感じた。まさに期待に満ちた風船が少しずつ膨らんで、さあ、これから高く飛んでいくんだと思っていた。

しかしながら、そう簡単にはいかないようだ。ワンディの前に大きな壁が立ちはかだったのである。それは試作品から、あの宝石屋にならんでいるような、美しく、きれいな商品に作れる職人をまったく知らなかったからだ。町のふたつの宝石屋も、自分たちでは作っておらず、宝石商から買い付けたものだということだけは教えてくれた。

ソフィーは親しい人に聞いてまわったが、「グランサムにはジュエリー職人はひとりもいない、そういったものはロンドンにしかいないだろう」と、皆、口を揃えて言った。ワンディは、ここから先は、自分ひとりではどうにもならない事をひしひしと感じていた。町一番の宝石屋になるという夢が、一気に遠くへ離れていくようなそんな気がしてならなかった。

仮に、ロンドンへ行って、職人を探し、ジュエリー制作をお願いするとしても、現実的にお金が必要なわけで、当然、お金はまったく持っていなかった。なんとかしてその解決方法を、何日も考えていたが見出すことができないまま、とうとう行き詰ってしまい、期待に満ちた風船がしぼむように情熱も冷めていった。

不思議な木のフルージュの帰り道で出会った、金髪の女の子のこともずっと気にしていた。もう一度、会いたいと学校や、町中を何度も探してまわったが見つけることはできなかった。母さんにフルージュへ探しに来た日のことを聞いても、大人だけで森に入ったといって、女の子のことは知らなかった。ワンディは名前を聞いていなかったことをとても悔やんでいた。

宝石屋の夢が壁にぶつかり、女の子にも再会できないワンディは少しずつ、もとの、普通の、何でもない日常へと戻っていった。



───それから、2年近くが過ぎた。───



運命は、その時がようやくきた事を教えるように母との別れからはじまった。

6月はじめのある朝、母ソフィーは、17歳に成長したワンディに大切な話しがあるとテーブルを挟み、向かい合わせに座らせた。 「大きくなったわね。」ソフィーはやさしく微笑んだ。「本当はもっと早くから話すべきだったんだけど・・・母さん、結婚しようと思っているの」ワンディは半開きに口を開け驚いた。「ゴメンナサイ、驚いたでしょう」ソフィーは続けた「ヘレナおばあちゃんには、もう、話しているのよ・・・あなたも大きくなって、これからのことを考えても、いいタイミングだと思ってるの・・・あなたは母さんが結婚すること、どう思う?」

ワンディはいろんな感情で心が揺れていた。「母さん」ワンディは少しの沈黙のあとようやく話し出した。「新しい人と結婚したら、幸せになれるんだよね?」ソフィーはゆっくりと小さくうなずいて見せた。───それからしばらくして、母ソフィーは再婚して、家を出ていった。

もともと、ワンディに父親はいなかった。産まれてくる、3ヶ月前に熱病で亡くなっていた。いままで、ソフィーとずっとふたりで楽しい生活を送ってきた。たまに、町のはずれに住んでいる、祖母のヘレナもバナナや季節の果物を持ってきては、ふたりのことを気に留めてくれていた。

ワンディはふたりの愛情をしっかりと受けとめて育っていた。だからこそ、自分に父親がいないことへの寂しさを感じることもなかったし、むしろ、母や祖母にはいつも、笑顔であってほしいと強く思っていたくらいだ。

不思議な木のフルージュに込めた、2つ目の願い、”母さんが幸せになりますように”がこれで叶ったんだと思った。これは、心から喜ぶべきなんだと自分に納得させようと何度も言い聞かせた・・・けど・・・だけど、言い聞かせるたびに胸が強く締め付けらていた。

ソフィーが家を出ていった後、ワンディは、慣れ親しんだ思い出が詰まった家を離れ、祖母のヘレナおばあちゃんの家で、一緒に暮らすようになった。学校へ通うまでの時間がいままでより、15分ほど余計にかかるくらいであとは特に不自由になることはなかった。しかし、どこかぽっかりとした寂しさは残ったままだった。

そして、もうひとつの別れもすぐにやってきた。

親友フレディ・エルガーとの別れだった。父親の仕事の関係で、ロンドンへ引越すことになったのだ。もともと、フレディは音楽が大好きで大きくなったらロンドンへ行くんだと話をしていた。とにかく、みんなから注目されたいらしく、人気者になることが彼の夢でもあった。

事実フレディは、ワンディよりも身長が3センチほど高く、ハンサムだったので女の子からの評判がよかった。性格は気が強く、負けずぎらい、少し意地悪な部分もあった。ワンディとは対照的な性格だったが出会ったときから、ウマが会うとはこのことだろうというくらいにすぐに仲良くなっていた。

よう、元気か?と先に声をかけてくるのはいつもフレディのほうで、ワンディにとっては数少ない、心の同類といえるだろう。学校の席はいつも隣どうしで、休みの日は何をするにも一緒だった。だからこそ、この受け入れがたい別れにワンディの気持ちは深く沈んでいくばかりだった。

別れの日、「宝石屋はどうなってるんだ?」フレディはあごをしゃくって聞いてきた。「いや、進んでいない」ワンディは力なく小さく答えた。そんな張り合いの無いワンディの姿を見てフレディはいきおいよく席を立った。

「ワンディ・ウッド!」フレディは真剣な眼差しでワンディを見ている。「いいか、俺はロンドンで夢を叶える。音楽で大きな会場を満席にするほどビックになるんだ。お前との別れはもちろんつらいが今ロンドンにいける事をチャンスだと思っている。だから、お前も夢を目指せ!そして、必ず叶えるんだ。いいな。」しかし、ワンディは小さく2回だけうなずき、わかったとだけ言った。今のワンディにはフレディを心から祝福して、見送ってあげる余裕はなかった。

家に帰ったワンディは窓辺に座り、物思いにふけっていた。ヘレナおばあちゃんから食事の誘いがあってもとても食べる気にはなれなかった。ヘレナも気持ちを察して、今はそっとしてあげるのがいいのだろうと思っていた。

その日の夜、ワンディはとても変わった夢を見た。

───それは、どこか見覚えのある森の中だった。ワンディの目の前に、緑色の服を着た、小さな男の子が立っている。まだ、6歳か7歳くらいだろうか。その男の子からはワンディの姿は見えていないようだ。

男の子の左手には小さな弓を持っており、右手を背中にまわして、矢筒から矢を1本取り出した。どうやら、数メートル先の木に向かって、弓を構えている。弓のしなる音がささやかながら、聞こえていて、小さな腕はその力みからか、小刻みに震えている。

次の瞬間、ビュンッと音とともに、矢を放った。矢は木の真ん中へ、突き刺さった。続けて2本目、3本目の矢を放つとほぼ同じ場所に突き刺さった。「すごい!」ワンディは声を上げて感心した。

「ロビン!ロビン!お昼にするから、こっちへきなさい。」この男の子のお母さんと思われる女性が、手招きしながら呼んでいる。木で大きく囲われた場所の中央には芝が一面に広がり、日差しは大きな光とともに若い夫婦に注いでいた。近くに小川が流れていて、色とりどりな料理が用意され、これから一緒に食事をするのだろうか。

男の子の名前がロビンと聞いてワンディはまさしく子供の姿をしたロビン・フッドと思った。若い夫婦の服装もかなり変わっており、かなり昔、中世の時代を思わせる服装を着ている。

ロビン少年は放った矢を取りに木のほうへと歩いていた。すると足下に小さな箱が落ちていることに気づいた。拾い上げて見てみると小さな箱には真鍮のプレートで”Imaginary toy box 想像のおもちゃ箱”と書いてある。独特の模様が施され、鍵はかかっていなかったが長いツタの葉が箱に封をするかのように巻きつき絡んでいた。誰もが好奇心を掻き立てられる謎めいた箱だ。

ロビン少年は絡んでいるツタの葉をほどき、思い切ってガランと箱を開けてみた。中から取り出した手には、小さな枝と小さな石を握っていた。「母さん!おもちゃ箱を見つけたよ。」ロビン少年が言った。「トゥイッグとペブルさ」箱の中身を握った手を高々と上げ、両親に見せた。そして小さな枝と小さな石は箱と一緒に投げ捨てられ、両親の下へとかけていった。

小さな枝と小さな石、そして”想像のおもちゃ箱”と書かれている箱はワンディからすぐ見える場所へと投げられている。ワンディはしばらく、じっと見ていた。すると小さな枝と小さな石がうっすらと緑色に光り出した。

緑色の光は小枝をバッタのような姿で包みこみ、小石を小魚のような姿で包みこんでいた。ワンディは興味深く、何なんだと前のめりになって見ていた。バッタ姿の小枝は小さな目をパチくりしながら、ピョンピョンと跳ねだし、魚姿の小石は少し大きな目を開き、地面から少し浮いた高さでゆらゆらと泳ぎだしている。

バッタ姿の小枝はワンディをじーっと見ている。「よう、ワンディ!」バッタ姿の小枝がワンディに話しかけた。「元気かい?久しぶりだね・・・といってもわからないか」ワンディは目を見張った。「僕の名前はトゥイッグ」バッタ姿の小枝はしゃべり続けた。「あいつはペブル。さっきの子がつけてくれたのさ。」

「君は僕の事を知っているの?」ワンディは好奇心で聞いてみた。「もちろんさ。」バッタ姿のトゥイッグが胸を張ってしゃべった。「大きなイチゴを食べた日のこと、もちろん忘れてないだろ?僕らは君たちが呼んでる、不思議な木のフルージュ。そうフルージュさ。え〜と、この名前はジュリエットが名前をつけてくれた。はじめて出会った美しき女性の人だ」

ワンディは言っていることがよくわからなかった。「ワンディ。もう、時が来たのさ。」トゥイッグはワンディにウィンクした。「何かはいったらいけないとあの人に口止めされているんだけど、新しいはじまりさ。あの人は君のことをとても気に入っているようだから、あんな大きなイチゴを実らせたんだ。とても美味しかっただろう」最後にトゥイッグはニンマリ顔を見せた。

バッタ姿のトゥイッグは魚姿のペブルに向け指をひとつ鳴らした。ゆらゆらと泳いでいるペブルが口からシャボン玉ほどの泡をひとつ吐き出した。「ポっ・・・」泡はふわふわと揺れながらテニスボールほどの大きさになった。「さあ、新しいはじまり・はじまりーーー」トゥイッグはそういいながらワンディに紳士的なお辞儀をした。それからペブルと一緒に泡の中へ飛び込んだ。

泡は地面の中へスーーーっと入って、消えてなくなった。あまりに一瞬で、よくわからなかったが目の前にあったはずの箱も無ければ小さな枝や小さな石もなくなっている。そのかわりに泡が消えた地面からは、小さな双葉の芽が瑞々しく顔を出していた。

ワンディは一体、なんだったんだろうかと思った。もう一度、夫婦のほうに目をやるとロビン少年がワンディの心臓に向けて矢を放とうと弓を構えて立っている。そしてひと呼吸もせずに次の瞬間、矢が放たれた。黄金の光の眩しさとともにワンディは目を覚ましていた。

ベッドの上でしばらくボーっとしていたが、その間も心臓の鼓動がドクン、ドクンと続いていた。この感覚は前にもあった、すべての血が熱くなっていく感覚、力が沸いてくるような感覚、心の底から愛おしいと思う感覚・・・そうか、思い出したっ!

ワンディはイチゴのヘタをかぶったときの女の子の笑顔をハッキリと思い出していた。「そう!あの時、君と出会った時の気持ちなんだ!」ワンディはベットを飛ぶように降り、本棚の片隅の奥に片付けていた、イチゴのヘタと宝石のような石を取り出した。

イチゴのヘタは2年近く経っていて、普通に考えれば、色黒く枯れてボロボロのはずだが、ふしぎと、ほんの少しだけ緑の濃さが深まった程度のきれいな状態でそこにあった。宝石のような石のほうは、埃さえ拭けば、あの時のまま、透明感があり、うっすらと黄金色を放っている。ところどころに欠けてる箇所には神秘的な虹色の輝きが宿っていた。

ワンディはイチゴのヘタと宝石のような石を両手に持って、あらためて強い決意をしていた。”町一番の宝石屋になる”そうすれば母さんやフレディも喜んでくれるだろう。そして、あの女の子にもまたきっと出会えるだろう。ワンディの心にやる気の炎がメラメラと燃え 上がっていた。

「ワンディ、ワンディや、起きてるのかい。朝ごはんできてるから、降りてきなさい」ヘレナおばあちゃんからの朝食のお誘いだった。イチゴのヘタと宝石のような石を本棚の見えるところに置いて、足早に降りてきた。「おや、今日は元気そうだね。ゆうべから何も食べてないから、おなかへっているだろう。しっかり、食べて学校にいきなさい。───そうそう、バナナも食べなさい。栄養たっぷりだからね。」ヘレナは手際よく、食器をテーブルに並べながら声をかけた。

「おばあちゃん、ありがとう。おなかぺこぺこだよ。───あっ、このパン先にもらうね。」ワンディはヘレナおばあちゃんが持ってきた、パンのバスケットに手を伸ばした。「あんたが笑顔になって、安心したよ。昨日はあんたの頭の上に雨雲がずうっとかぶさってるくらい、どんよりしてたからね」

ヘレナはソフィーの実の母で、ワンディの祖母にあたる。彼女は小柄でふっくらとした体型をしていた。黒くて長い髪は頭の上でたまねぎ形に束ねており、広いおでこに長いシワが何本か見えるのが印象的だった。ワンディを思う愛情はソフィーに引けをとらず、物言う歯切れのよさや料理のバリエーションはソフィー以上だろう。

ヘレナは熱々の、鍋から注いだスープをワンディの目の前に置くと思い出したように言った。「あっ、そうそう、今日の夕方になると思うけど・・・エドワードが家に来るらしいんだよ。・・・4年ぶりかねぇ・・・あんたに会えるときっと楽しみにしてるよ。」エドワードはヘレナの息子でソフィーの弟にあたる。

「エドワードおじさんがっ!」ワンディは熱々のスープを噴出しそうになりながら嬉しそうに言った。「そうだよ・・・だから、学校からまっすぐに帰ってくんだよ・・・あんたがこんなにも大きくなってとびっくりするだろうけどね」

その日の夕方、ワンディはヘレナとの約束どおりにいつもよりも早く家に帰ってきた。「おぉいっ、ワンディか!」エドワードはワンディを見るなり驚いた様子だ。「ほら、言ったとおりだろう」ヘレナは眉と肩を吊り上げ、したり顔を見せた。

「こんなに大きくなって」エドワードはワンディに手を差し伸べた。「本当にお久しぶりです。エドワードおじさん。」ワンディはしっかりと握手をした。エドワードにはふたりの子供がいたがいずれも女の子だった。男の子を持ちたいと強く思っていたエドワードはワンディと久しぶりの再会に心を弾ませていた。

エドワードは持ってきたお土産をひととおり、母ヘレナとワンディに渡したあと、2階のワンディの部屋で話をしていた。 「少しはこの家にもなれてきたかい」エドワードがやさしく語りかけた。「この部屋はわたしが使っていた部屋だったんだ・・・狭いだろうけど、とても落ちつくし・・・ほら、見えるだろう」エドワードは窓から見える庭を指差した。

「母さんはむかしから庭をいじるのが好きだから、季節ごとにいろんな花が咲いているのがここから見えるんだ。・・・それから、ほらあの小さな庭小屋、あれによく閉じ込められていたんだ、なぜだと思う?もちろん、わたしが父さんを怒らせてしまったからだよ。1日中あの小屋に入れられていた事もあってね。」

「姉が心配して声をかけにきてくれたけど、わたしは全然大丈夫だった。庭小屋には四角い小窓があるんだけど、そこから月や星がとてもきれいに見えていたんだ。だから、むしろずっといたいと思っていた。自分だけの特別な場所に思えたんだ。」

「んっ・・・ワンディ、これは何だい?」エドワードは本棚にかけてあった、イチゴのヘタのネックレスの試作品を手に取った。「それは、試作品なんです。エドワードおじさん。・・・宝石屋になろうと思っていて、いくつか作ってみたんです。」ワンディは他の試作品も取り出し、机の上に広げた。

「すばらしい!宝石屋をはじめるのか。」エドワードは嬉しそうに言った。「でも、今、行き詰ってしまっているんです。」ワンディは口をへの字にして考え込むように言った。「この試作品をお店に並んでいるような美しくてきれいに作ってくれる職人をどうすればいいのか。」

「ワンディ、それは大丈夫だ。」エドワードは答えがわかったように言った。「ロンドンへ行ったらいい。ロンドンにはすばらしい職人がたくさん、いるだろうからね。」「でも、お金を持っていないんですよ。」不安そうにワンディが言う。「それも大丈夫だ。」エドワードは得意げな表情を見せた。「何事にも考えすぎて、足を止めたらいけない。」

エドワードはちょっと待ってといって、足早に下の階へ降りてから、紙とペンを持って上がっきた。「ロンドンにタイラー・エリアソンという人がやっている、宝石屋があるんだ。」そういいながらエドワードは紙に書きはじめた。「彼に一度、会ってみるといい。何かのきっかけになるかもしれないからね。」

「タイラー・エリアソン?」ワンディは聞き返した。「ああそうだ、」エドワードはうなずきながら言った。「仲間たちからはタイじいって呼ばれているそうだが本当にすごい職人だぞ。何でも、昔は王家の専属のジュエラーだったそうだ。今はお年を取られて、ゆっくりと仕事をされている。」

「おじさんは何でそんなに詳しいの?」ワンディは聞いてみた。「実はね、娘の友達がそのお店で働いているんだ。」エドワードは書くのを止め、ワンディのほうを向いた。「わたしも妻の指輪が壊れてしまったときがあって、娘からその人のことを聞いてね。そんな、すごい人がいるなら、ぜひ、お願いしたいといって依頼したことがあったんだ。しばらくして、出来上がったのを見て、まあ、それは見事なもんだって感激したもんさ。だって、近くの宝石屋に見せたときはもう直せないと断られていた、くらいだったからね。」

「詳しい場所は・・・」エドワードはメモ書きの仕上げに入った。「これこれ、その時の明細に書いてある。・・・ハットンガーデンの88-94番地」「よしっ、ワンディ」エドワードはメモした紙をワンディに渡した。「休みの日にでもここで働いているアナスタシア・ジェンキンスを訪ねてみなさい。彼女が娘の友達だからね。」

「わたしも明日、ロンドンへ寄って帰ろうと思っていたから、お店に伺ってみよう。お礼をかねて、きみの話を聞いてやってくれとお願いしておくからね、ちょうど良かった。」エドワードは微笑みを見せた。「ありがとうございます。」ワンディは受け取った紙を手に取りながら不安が入り混じった笑顔を見せた。「心配するな」エドワードは両手でワンディの肩に手を乗せた。「すべてはうまくいくさ!冒険と思って楽しめばいい。・・・それから、今日はわたしも久しぶりにこの部屋で一緒に寝てもいいかな。」

翌朝、エドワードおじさんはロンドンへ寄って帰っていった。

そして次の休みの日、ワンディはグランサムの駅のホームに立っていた。手には古い革のかばんを握っている。かばんの中には宝石に関する本や4つの試作品にラフ画、アイデアノート、ヘレナおばあちゃんが持たせてくれたお弁当にバナナが一本。

ワンディはとても緊張していたが興奮もしていた。何せワンディは生まれてから一度もロンドンには行ったことがなかった。駅のホームに入ってくる汽車を見ながらワンディは心の中でこう思っていた。「町一番の宝石屋になる。そうすればきっとあの子にもまた会えるはずだ」

© 2022–2026 Tadahiko Sakai. All Rights Reserved.Story and characters: Fruje

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