第3章 ダニエル・ウィンストン (2022/09/01)
ワンディは叔父、エドワードから聞いた、ジュエリー職人のタイラー・エリアソンを訪ねるためにロンドンへと向かった。汽車はロンドンのキングズ・クロス駅に到着するころには多くの乗客で車内はいっぱいになった。キングズ・クロス駅に着いたのは13時をまわった頃。扉が開くと押しだされるようにワンディは汽車を降りた。
駅の構内は汽笛の音や行き交う人の足音、あっちこっちでどなりあう声・・・騒がしさと熱気で溢れていた。ワンディは物珍しそうに大きな時計や長いアーチ状の屋根を端から端まで見渡しながら、出口のほうへと足を進めた。
駅を出たら一息つけるかと思って改札を抜けると、駅前の広間にはこれまたすごい人だかりで溢れかえっていた。誰か、有名な人でも来ているのだろうか?たくさんの記者で取り囲んでいるのが見えた。
「おい、見に行こうぜ・・・来てるらしいぜ」すれ違いざまにそう言うとカップルは人だかりのほうへ向かっていった。「さっさっ、ひと目だけでも奥様、見ないと・・・」こちらの婦人方はスカートをまくし立てて、足早に向かっている。
ワンディは気になって、足を止めた。せっかく、ロンドンまで来たのだから誰が来ているのかひと目見て、ヘレナおばあちゃんに小話でも聞かせてあげようと考えた。人の流れに乗って、人だかりに向かおうとしたがすぐにやめることにした。今日、何をしにここへ来たかということをすぐに思い出したからだ。
エドワードおじさんからのメモ紙をポケットから取り出した。「ハットン・ガーデンはまだ、ここからしばらく歩かないと」ワンディはグレイズ・イン・ロードを南へ歩き、途中でお弁当を食べ、ここの交差点を曲がればもう少しと思いながら角を曲がるとワンディの目の先には女の人が数人の男に囲まれていた。
女性は色白で栗色の巻き髪にピッタリした帽子をナナメにかぶって大きなおでこを出している。黒のサングラスに赤い口紅、黒のニットにかなりワイドなパンツを穿いている。首のネックレスと手首のブレスレットが一際キラキラと輝いていた。
男たちは4人いて、皆、ありがちなスーツを着ていた。「お前、ダニエルんとこのアシスタントだよな──ペッ」リーダーのきつね顔でそばかすがある男は唾を吐きながら言った。「アシスタント?」女性はサングラスを頭の上にかけなおして、睨むように言い返した。「何あんたたち、さっきからずっと、わたしたちつけてきてたわよね」
「あ──ついて来たよ。」リーダーの男は顔を突き出して言った。「ダニエル君に用があってね。──ペッ」女性は唾を吐く男を気持ち悪い顔で見ていた。男たちが女性に嫌がらせをしようとしていたのがありありだった。すこしずつ、野次馬も集まってきている。
これはほっとけないと思ったワンディは、男たちのほうへ向かおうとした、まさにその時、誰かがワンディの肩をつかんだ。「あっ、失礼」そういって、ひとりの男が入ってきた。「エルサ、ごめんね待たせて」その男は片手にふたつのチョコレート・アイスクリームを持っていた。
全身、白スーツで表れたこの男、名はダニエル・ウィンストン19歳。世界4大ジュエラーのひとつ、”CHAELLE de A シャエル・ド・エー”の若きデザイナーである。「誰、この人たち?」ひとつのアイスクリームを女性エルサに与えながら言った。
「これは、これはダニエル君じゃないですか。グァッッッ──ペッ」リーダーの男はさらに大きな唾を吐き出した。「注目の若手デザイナーとして、ずいぶんとご活躍されているようですが・・・ご機嫌はいかがかな?」連れの男たちも嫌味顔でダニエルを見ている。
「ふーん、L(エル)の紋章をつけているようだけど、ルヴァイスの方たちですよね・・・何か御用でも?」ダニエルはアイスをなめながら返事をすると、リーダーの唾吐き男は3人の仲間にあごをしゃくって、やれと合図をした。男たちは一斉にダニエルへと襲い掛かった。
はじめの男はダニエルをつかもうと勢いよく飛び出したが、ダニエルは風を感じるようにひらりと交わし、足を出した。男はダニエルの足に引っかかり、野次馬の足元へ派手に転んだ。余韻の間もなく次は二人同時に殴りかかってきている。
ダニエルは左からくる男に持っていたアイスクリームを顔めがけて喰らわせた。そのあと素早くしゃがみ込み、右からくる男に回転しながら、足払いを決めた。男は頭から真横にバタンッと倒れた。野次馬たちは一斉に歓声をあげた。ダニエルは毅然と立ち上がり、襟を正す。後ろに立っているエルサも何ならわたしもやるわよという気迫の構えを見せている。
倒れた男たちは鬼の形相を浮かべながら立ち上がっている。チョコレートアイスを顔に浴びた男は泥を掻くようにアイスを払い、ダニエルを睨んでいた。ピピピーっ、笛の音が耳をふさぎたくなるほどに鳴った。
ひとりの警官が野次馬を掻き分けて入ってくる。「何があったのかね!」警官はひたいの汗を拭きながら、ダニエルに理由を聞いた。「何でもありませんよ。あの方たちが僕たちが食べているチョコレートアイスをどうしても舐めさせてくれとお願いするもんですから」ダニエルはアイス男のほうを見て、ニヤリと言った。「なあ、チョコ味はうまいだろ?」
「ングォォォ──ベッ」リーダーの唾吐き男は全身全霊の唾を吐いた。「おい、行くぞ!」そう言って、男たちは逃げるように立ち去ろうとした。だが、その方向にはワンディが立っている。男たちは「どけっ!」といって、ワンディを派手に突き飛ばした。ワンディは真後ろに倒され、持っていたかばんは投げ捨てられ、中身がそこらじゅうに散らばった。
それを見たダニエルはすぐにワンディに駆け寄った。「君、大丈夫かい?」ワンディの手をとり、声をかけた。「いててっ、大丈夫。ありがとう。」ワンディもダニエルの手を握り返し、起き上がった。
警官はもう終わりだといわんばかりに野次馬たちを手でシッ、シッと追い払っている。ちょっとした、熱気に包まれた人だまりはすぐに散り散りとなり、人の行き交う流れと変わった。まだ、その場所に残っているのはワンディとダニエル、そしてエルサだった。
「ダニエル、あいつら何?ルヴァイスのまわしもの?」エルサはワンディのかばんを拾いながら言った。「たぶんね。・・・おや、何か素敵なものを見つけたけど」ダニエルは落ちていた、ワンディの試作品、ニュートンピアスを拾いあげた。「これはリンゴのデザインのようだけど、ハートの石が留めてあるね。」
「あっ、ありがとう」ワンディは顔を赤らめながら、そのピアスを受け取った。「これは、試作品なんです。・・・そのジュエリーというか、何というか」見ず知らずの人に説明するのがこんなに恥ずかしいものなのかと思った。
「へー、すると君はジュエリー職人なのかな?」ダニエルは覗き込むように、ワンディに聞いた。「いえ・・・そのジュエリー職人を訪ねて、今日、このロンドンにきたんです」ワンディは耳まで赤くなった。
「エルサ!聞いてくれよ」ダニエルは振り向いて、エルサに嬉しそうに言った。「彼は僕らと同じ、ジュエリーに恋する人のようだ。」「ふ〜ん、すると、こちらのどう見ても、バナナのようなものもジュエリーになさるご予定で・・・」エルサは馬鹿にした顔でバナナネックレスの試作品を耳元で揺らしていた。
「エルサ、君のその態度はよくないな」ダニエルは鋭い目をしながらエルサに一喝した。「君が男たちに囲まれているときに彼は一番に助けようとしてくれたんだぞ」「あら、それは大変失礼いたしました」エルサは鼻をツンと上げて言った。「でも、あれくらいの男なら、わたし一人でも蹴散らしてやるわ」気が強そうなエルサを見て、ワンディとダニエルは顔を見合わせて苦笑いを顔をした。
「僕はダニエル・ウィンストン。君の名前を聞かせてくれるかい?」「僕はワンディ・ウッド、よろしく。」ふたりはあらためて握手をした。それはお互いに何か特別な運命を感じるような、長い時間の握手だった。「僕たち、気が合いそうだね」ダニエルが言うと「そうだね」とワンディも同じ気持ちで言葉を返した。
「彼女はエルサ・キャンベル。僕のアシスタント・・・ではなく、良きライバルかな」ダニエルはワンディにあらためて紹介した。「はじめまして、ワンディ」エルサはワンディと軽めの握手をした。「シャエル・ド・エーのエルサです。よろしく」エルサはワンディがジュエリー関連の仕事をしているなら、多少なりとも驚くだろうと思った。
シャエル・ド・エーが世界4大ジュエラーの中でもトップに君臨するフランスのジュエラーであることと目の前にいるふたりが業界新聞の一面を飾るほどに注目されているデザイナーであるということくらいは知っているだろうと思ったからである。
しかも、ダニエル・ウィンストンは格別だった。世界の王室がこぞって100年にひとりの逸材という声をあげるほどで、昨年のシャエル・ド・エーが発表したモデルの大半が新人であるダニエル・ウィンストンのデザインだったことで一気に注目を浴びた。もちろん、エルサのモデルもひとつだが採用されていた。
ワンディはそんなことはまるで知らなかったのでやさしい笑顔だけを見せていた。エルサはワンディの反応がイマイチだったのが気に食わなかったのか、つまらない顔して、指にまで溶けて垂れているアイスを一生懸命に舐めていた。
ダニエルはワンディにこれから、どこへ向かうのかと聞くとちょうど自分たちも向かおうとしていたタイラー・エリアソンのお店だったのでこんな偶然な事ってそうそう起きないよねといって満面の笑みを見せた。
エルサはベトベトになった手を拭きながら、それじゃあ、わたしが案内してあげると買って出た。ふたりの前に出て、右手を高く上げ、付いておいでと手招きして、歩き出した。
タイラー・エリアソンのお店には、ほんの10分ほどの短い道のりだった。そのわずかな時間も、ダニエルがワンディにハットン・ガーデンのことを詳しく話をしてくれた。このハットン・ガーデンはイギリスで最も歴史ある宝石の街であるということ、上質のダイヤモンドが世界中から集まってくること、そして腕利きのいい職人が競い合っている場所だということ。
ワンディはここへ来る前、タイラー・エリアソンのお店はどんなお店だろうかと想像をしていた。とても大きなお店で、高級感があり、入り口には大きな男のドアマンが睨みを利かして立ってる。はじめて訪問する者にとってはいかにも入りづらいお店だろうと思っていた。
しかし、エルサが「さあ、着いたわよ」と言って、目の前で見たものはまったく違っていた。それはそれは、とても小さなお店だった。高級感というものはまったく無く、両手を広げたほどの石壁に黒く重そうな扉一枚、扉には剥がれかかった金色の文字で”タイラー エリアソン ジュエリー”と書いてあるだけだ。もちろん、ドアマンは右にも左にもいなかった。
エルサが入ろうとドアノブに手をかけると、ドアが開き、先客が出てきた。「エリアソン。そんなこと言わずに一度考えてくれないか」肥えた商人らしき男が、奥の人物に向かって叫んでいる。「はい、はい、もう、話は終わりだよ。」女性店員は肥えた男を店の外に押し出しながら言った。
「あらっ、エルサ!」女性店員はエルサに気づいて声をあげた。「アナ!」エルサはそう叫ぶと女性店員に抱きつき、興奮で顔を輝かせていた。外に追い出された肥えた男は不満そうな顔を浮かべながら、服を払って、足取り重く、店を後にしていった。
「ああっ!ダニエルも来てくれたのね。うれしい。・・・そちらははじめましてかしら」女性店員ちらっとワンディを見たあと、エルサに抱きつかれたまま、中へ案内してくれた。中はひんやりとした奥に長い部屋だった。
店先にライトアップされた脚長のショーケースが1つあり、真ん中には古びたソファーとテーブル、その上には飲みかけの紅茶が2つ置いてある。部屋の奥を見るとこじんまりとしたおじいいさんが座って何かの作業をしているようだ。
ダニエルは店に入ると「タイじい!」と言って、部屋の奥へ向かっていき、おじいさんと懐かしむように語り合っている。ワンディはあの人がタイじいと言われるタイラー・エリアソンなのかと見ていた。
女性店員はエルサと長々と話をしているし、ダニエルもタイラーと楽しく話をしている様子が伺えた。ワンディはひとり、取り残されたような気分でショーケースの宝石を眺めていた。ようやく、ダニエルが戻ってきたころにはワンディはこの店にある宝石の説明は誰にも負けないだろうと内心思った。
戻ってきたダニエルはこれからエルサと工房に行ってくるからと「頑張ってね」の一声だけかけて出て行った。「ごめんなさい。お待たせしたわね。」女性店員がエルサに手を振りながら、言った。「今日はどういった御用かしら。」ワンディが目の前の女性がアナスタシア・ジェンキンスであることを確認してからエドワードおじさんの話をした。
「聞いてるわよ。ワンディという子が来るから、一度、話を聞いてやってくれってね。」女性店員のアナスタシアは気難しそうに言った。「アナスタシアから一度・・・」ワンディが話そうとしたら「アナと呼んでね」アナは話を割って言った。「でも、あの人なかなか手ごわい人だけど・・・大丈夫?」アナはそう言うと奥へと向かっていった。
アナが下を向いて作業をするタイラーに話をする様子はワンディにも見えた。そのあとアナはワンディを見て手招きして、呼び寄せた。ワンディはだれかに心臓を握られるような息苦しさを感じながら奥へと歩いていった。「5分だけならいいよだって」アナはワンディの肩を軽く叩きながら言ったあと、店先へと戻っていった。目の前にはタイラーが下を向いて相変わらず作業を続けている。
ワンディはタイラーの張り詰めた緊張感を感じて最初の3分、何もしゃべれなかった。「何じゃ、ずっと無言で突っ立てて。」タイラーが先に声をかけた。「何かわしに用があって、来たんじゃなかったのかい。若いの」「は、はじめまして、ワンディ・ウッドと申します。」ワンディはどう声をかけていいかわからなかったので少しほっとした。「実は見ていただきたいものがありまして」
タイラーはゆっくりとした動作で手を止めた。そしてメガネの上からワンディを見た。「若いの、まー座ったらええ。」ワンディに声をかけてもタイラーの厳しい表情は変わっていない。ワンディは深呼吸をしてから椅子に腰掛けた。それから、かばんの中から、4つの試作品をテーブルに広げて見せた。「これを作ってくれる職人を探しているんです。」ワンディが言った言葉でちょうど5分が過ぎた。
タイラーは時計をちらっと見て、試作品を手に取って眺めていた。店先に戻ったアナも気になってふたりの経緯を見守っていた。「何でこれをつくりたいんじゃ?」タイラーはまた一段と厳しい表情で聞いた。ワンディは何で?と不意を付かれた質問に頭の中は大混乱していた。
「どうしても、会いたい女の子がいるんです!」ワンディが考えに考えた答えだった。「はっ?女の子とな・・」タイラーも予想していなかった言葉に、厳しい表情が和らいだ。ワンディはつづけて不思議な木のフルージュで女の子に出会った時の話をタイラーに聞かせた。「ガハハっ・・・イチゴのヘタとは、こりゃおもしろいわ」タイラーの目はワンディへの好奇心に変わっていた。
タイラーが声をあげて笑ったので、店先で気を揉んでいたアナも安心したようだった。タイラーはワンディのことをとても、気に入ってくれたようだ。5分だけと言った事はすかっり忘れていた。
「いろいろとお前の話はわかった。」タイラーは心を打ちあけるように語った。「それで、いくつ作ればいいんじゃ?」「えっ?あっ・・・いや。」ワンディは話が進むことに戸惑った。「アナ」タイラーは店先のアナを呼びつけた。「心配せんでええ。お前、金なんぞもっとらんじゃろ。まぁわしが好きで作るだけじゃわい。最初やから10づつ作ってみるかの。」
「アナ、この4つの商品の図面作ってくれるか。」タイラーはワンディの試作品とデザイン画を手に取ってから、アナへと渡した。「それから、ルイ達にも新しい仕事が入ること、話しといてくれ。」アナは目を大きく開け、狐につままれたような顔をして、そのままお店を出て行った。
タイラーはワンディに今から1ヶ月後にまた、取りに来なさいという事とこれからはタイじいと呼んだらええからという事を伝えて、作業の続きをし始めた。ワンディは深々とタイじいにお礼を言ってお店を後にした。
ワンディがキングズ・クロスの駅に到着するころに工房からアナとダニエル、エルサの3人がお店に戻ってきてからが賑やかになった。「タイじい!彼の作品を作ってくれるのかい?」ダニエルがそう言うと「本当に信じられない」アナとエルサはまだ、信じられない様子だった。
それもそのはず、タイじいことタイラー・エリアソン、このハットン・ガーデンで彼の名前を知らないものは誰もいない、年は70を越えるが王家の専属ジュエラーの肩書きを持っており、伝説の職人と言われる存在である。この年になっても、彼に宝石商はもちろん、有名なジュエラーから仕事の依頼をお願いされるがすべて断るのが当然だと店先のアナはいつも思っていた。
事実、この10年の間、新規の仕事など請け負ったことがなく、修理の依頼のみに没頭するばかり、店先のアナスタシア・ジェンキンスはタイラー・エリアソンの弟子を希望して、このお店で働いていたはずだがやる仕事は店先の受付窓口のような仕事ばかりでそれが日常となっていた。
それがそれがである、あのタイラー・エリアソンがはじめて、新規の仕事を請けたのである。それもお金ももらわず、ただで仕事を請けるという。唖然としているアナはタイじいに聞きたいことが山ほどあった。がダニエルが先に聞ききだした。
「どうして、作ろうと思ったの?」ダニエルが聞くと、タイじいはワンディとのやりとりを思い出しながら朗らかに話し出した。「そうじゃの、いくつか理由はあるが1番はわしがワンディを気に入ったからじゃ。ここに仕事の依頼をしにくる者は大概、コンセンプトは・・・とか、環境にいいものをとか、カッコええ事しか言わん。じゃが、あいつは純粋に会いたい女の子のために作りたいと言ったんじゃ。話を聞いたら応援したくもなるじゃろ。わしも、その話の続きを見てみたくなったもんでな」
そのとき、店の扉がバタンと開いて、恰幅のいい大きな男たちがどかどかと入ってきた。タイじい専属の工房の職人たちがワンディという若者をひと目、見ようと工房から、来たのである。「オヤジ!」リーダー角のルイは涙を浮かべていた。
「ワンディという小僧はどいつだ!」ルイは店内をキョロキョロ見渡しながら言った。「ルイ兄さん、ワンディっていう子は先に帰ったみたい」ルイに向かってアナが言った。口が半開きのルイはタイじいのそばにかけ寄った。「オヤジ、オレは・・オレはこの日が来る事をずっと、ずっと・・・」涙もろいルイは泣き出した。それを見てみんなは一斉に笑い出した。
そんなことがタイじいのお店で起こっていることをワンディはまったく知らなかった。すでにワンディは帰りの電車に揺られ、田園風景が続く景色を遠くに見ながら、考えごとをしていた。いまだに試作品が商品になることは信じられなかったが出来上がった商品をさあどうするのか?ワンディの考えはひとつにまとまりつつ、汽車は汽笛を鳴らしていてグランサムへと向かっていた。
© 2022–2026 Tadahiko Sakai. All Rights Reserved.Story and characters: Fruje
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