第5章 幸運を呼び込む訪問者 (2024/06/10 17:15)
開店して1ヶ月が過ぎた。9月に入ってからもお客さんは誰もこなかった。・・・毎日のように悪口を言っていたクラスの子や街の大人たちもいいかげんその話題に飽きたようで何も言ってこなくなった。それでも、ヘレナは時間を見つけては近所に声をかけ続けている。ワンディも店前に立つことをやめ、庭小屋の中で椅子にすわり、宝石屋を始めたことを伝えるために母ソフィーや叔父のエドワード、親友のフレディへ手紙を書いていた。庭小屋の中は小窓を開けれは風が吹き抜けて、とても気持ちが良かった。コンテストの作品や新作を考えるのにも想像力を発揮できるいい場所だとさえ思った。
ある日のこと、ワンディは手持ちの紙がなくなったので家に取りにいこうと庭小屋を出た。「ねえリリー、ここお花がきれいだね〜」「ホント、とってもきれいねマリー」4歳くらいの女の子ふたりが庭の前に座って話をしていた。もちろんワンディもお客さんではないとはわかっていたがやさしく挨拶した。「やあ、おふたりさん」
「リリー?マリー?」お隣から足早に走ってくる女性がいた。「ここにいたのね・・・あら?こんにちは」その女性はワンディに気づき、気品高く挨拶をした。「ごめんなさいね。ちゃんとご挨拶したかったのにこの子たちが先に来てしまって・・・はじめまして、隣に引越しをしてきたマルティネスです。この子たちは双子のリリーとマリーです。・・・ちゃんとご挨拶したの?」リリーとマリーはにっこりと顔を合わせて首をかしげた。
「はじめましてワンディと言います。・・・いえいえ・・・今ちょうど僕たちも出会ったばっかりですから」ワンディがお母さんに言った。「わあすごい!」お母さんは美しい花が広がる庭を目にして言った。「あなたのお家のお庭、とてもステキだわ」「ありがとうございます。この庭はおばあちゃんの自慢の・・・」ワンディが話をしている隙に双子のリリーとマリーはワンディの足元をすり抜け、庭小屋の中へ飛び込んでいった。「ここ、なあ〜んだ!」ふたり揃って言った。
「こら、待ちなさい・・・勝手に入り込んじゃ・・・あ〜、ホントにごめんなさい」そう言いながらお母さんも庭小屋の中へ失礼した。「・・・こらこら、勝手に人様のものを触るんじゃありませんよ。・・・あら?ここは小屋よね?」女の子たちからは見えなかったがお母さんは庭小屋の中できれいに飾られている宝石に目がとまった。
「はい、そうです。ここは小屋ですが・・・ここで宝石を売っている庭小屋の宝石屋なんです」庭小屋の中はすでに定員いっぱいなので外からワンディが言った。「え〜、宝石って何?見せて、見せて〜」リリーが言うと「まって、わたしが先に見た〜い」マリーが言った。ワンディは手を伸ばしてネックレスのひとつを取って、女の子たちに見せた。
「わぁ〜〜〜〜」リリーとマリーは目をキラキラ輝かせながら口を開け、揃って声をあげた。「キラキラしてきれい・・・リリー欲しい!」リリーが言うと、「ダメ!マリーがほしいもん!」マリーが言った。こうなると手のつけようがないことを知っているお母さんはふたりの手をとり、とにかく一度小屋から出さなければと考えた。「さっ、いい子たちだから、一度お外に出ましょ・・・」
その様子を見ていたワンディはクスッと笑い、笑顔を見せた。たとえ、小さな子供たちではあるが今手に持っているこの宝石をキレイと言ってくれて、欲しいとまで言ってくれたのだから。女の子たちはふたり揃って、しばらく扉にしがみついて離さなかったがお母さんがおやつにしましょと言って、ようやく庭小屋から距離を置いた。「ワンディ、家が落ちついたら、あらためてご挨拶に来るわね・・・」お母さんがふたりを引張って家に帰る間、リリーとマリーはずっとうしろを向いてワンディに手を振っていた。
次の日の朝、お隣に引っ越してきたマティネスご夫妻と4歳になる双子の女の子、リリーとマリーがワンディの家に挨拶にきた。まだお若いご夫婦ではあったがご主人が学校の教師ということもあって、たいそうご立派な挨拶で少し重苦しい雰囲気になっていた。ただ、ヘレナあばあちゃんは退屈そうな双子のリリーとマリーを見て、あまりに可愛いので少しでもふたりから気に入ってもらおうとして「これ、食べるかい?」と言って、台所から果物やお菓子、デザートを次から次へと持ってきていた。
庭小屋の宝石屋のまわりには秋の花を求めて蝶がふらふらと舞っていて、いつもと変わらないゆったりとした時間が過ぎている。ただ、夕方になると庭小屋の扉をコン、コンとノックをしてくる、訪問者がいた。「ワぁンディ〜、何ぁにしてるの〜」そう言うのは双子の女の子、リリーとマリーだった。リリーとマリーはこの庭小屋がとても気に入ったようで毎日とは言わないがよく遊びに来てくれた。
ワンディは最初こそは「やあ、いらっしゃい」とか「また、きたね」とお兄さんぶって話かけていたが、慣れてきたころには「いらぁっしゃぁ〜い」や「まぁた、きたぁ〜の〜」と自分まで子供言葉でしゃべるようになっていた。ワンディはふたりが訪ねてきてくれるのが楽しみになっていた。
コンッ、コンッ。今はまだ夕方ではない。今日はいつもより来るのが早いなと思いつつ、ワンディは庭小屋の扉を開けた。「きょおうはぁ、はぁやぁいね〜・・・えっ!」ワンディの目が人違いに気づいて、米粒ほどになった。「よう、ワンディ!」懐かしの親友、フレディー・エルガーとフレディのお母さんミセス・エルガーが立っていた。「どうしたんだ、その言葉は?」フレディは苦笑いをしながら言った。
「フレディ!来てくれたんだ。・・・・それから、こんにちは、ミセス・エルガー」ワンディはもう、何年も会っていないような気持ちでふたりに挨拶をした。「こんにちは、ワンディ」ミセス・エルガーが言った。「今日、グランサムに用事があってきたのだけどフレディからあなたが宝石屋をはじめたから、見に行こうと誘われたの」
「そうりゃそうさ!」フレディが言った。「親友が夢の宝石屋を始めたんだ、すぐにでも行かないと・・・それに、その宝石が今、ちょうど必要なんだよな・・・なあ、母さん」「まあ、そうね」ミセス・エルガーが言った。「今、ロンドンにヴィヴィアン・カーリーが来ていてね、え〜と、ワンディ、知っているわよね?アメリカの人気女優、ヴィヴィアンのこと」ワンディは軽くうなずいた。
「そう、そのヴィヴィアンがこないだからロンドンの街で映画の撮影をはじめてるの・・・それで、わたし、今度、その撮影現場に行ける事になって、目の前でヴィヴィアンを見ることができるの・・・それで今、お洋服とか身につけるものとかいろいろ考えていたわ・・・本当はロンドンの宝石屋で新しいものをと思っていたけど・・・ちょうど、あなたのお手紙届いて・・・まあ、見るだけなら見せてもらおうかと思ってね」
「ワンディ、本当にここでやってんのか?」フレディは庭小屋に手のひらを向けて言った。「手紙に書いてあって、ジョークかと思ったが本当だったんだな庭小屋の宝石屋・・・それでどうなんだ調子は?」「調子もなにもまだ、誰ひとり来てくれていないよ」ワンディは開き直った様子の笑顔を見せながら言った。
「それじゃ、オレたちがはじめてのお客さんということだな」フレディが胸を張って言った。「では、さっそく見せてもらいましょう。ワンディのジュエリーを・・・」フレディが急にお客さんぶるもんだから、ワンディは親友ということを少しのあいだ忘れ、はじめてのお客さんという緊張に包まれた。「そ、それじゃこちらへどうぞ・・・こちらがお店ですので中を自由にご覧になってくださいませ」まずまずうまく言えたのでは?と思ったワンディ。
フレディとミセス・エルガーがはじめてのお客さんとして庭小屋の中へ足を入れた。「あらっ、中はこじんまりとしてとても居心地がいいわね」ミセス・エルガーは庭小屋の中をぐるっと見渡した後、ワンディのジュエリーに目をやった。「おぉ〜・・・」フレディーから思わず声があがった。「このバナナのやつ、前に試作品で見せてもらったやつだ。・・・いいね。いいね」
「なあワンディ?」フレディが聞いた。「この4つともワンディがデザインをして、ロンドンの職人が手作りしたって手紙に書いてあったけど、そうなのかい?」「そうだよ」ワンディは小屋の外から接客をしている。「デザインは僕だけど制作はロンドンのタイラー・エリアソンという職人に作ってもらったんだ」「タイラー・エリアソンって、それ本当?」じっくりとワンディのジュエリーを見ていたミセス・エルガーが振り向いて、聞いた。
「はい、本当です。たしかに作ってもらいました」ワンディは丁寧に返事をした。「それはすごいことよ・・・だって、エリアソンは昔、シャエル・ド・エーの名職人と言われてた人物よ。彼がいたころに大人気のモデルがあって、わたしも持っているわ。もう、お年を取られて引退していたのかと思っていたわ」ミセス・エルガーは目の前のジュエリーがタイラー・エリアソンに作られたものだと聞いて、見る目が変わった。
「オレ、これがいいな」そう、フレディが言うと。バナナのネックレスを胸元へとあて、ワンディに見せた。「お客様、お似合いです」庭小屋の外からワンディは返しの言葉もうまく言えたなと思った。「あははっ・・・お客様、お似合いですだって」フレディはワンディの接客する姿を見て笑った。ワンディもこの雰囲気を大いに楽しんだ。「それじゃワンディ」ミセス・エルガーは手にイチゴのヘタを被ったネックレスを持っていた。「わたしはこちらにするわ。・・・この小さくて愛らしい雰囲気がいいじゃない。気に入ったわ」
「お客さんかい?」ちょうどヘレナおばあちゃんが買物から帰ってきて、庭小屋の外でワンディの接客する姿を見て言った。「おばあちゃん!」ワンディがヘレナに言った。「はじめて僕のジュエリーを買ってくれるお客さんさ」「そ、そうなのかい!」ヘレナはうわずった声をあげた。「こんなことしちゃいられない。す、すぐに準備するからね。・・・お客さんにはお家へ寄っていただいてね。・・・あ〜やっぱりこの日がきたんだね。あ〜神様」ヘレナは買物で買ったリンゴを1個落としたことにも気づかず急ぎ足で家へ向かっていった。
ヘレナおばあちゃんはほんの短い時間でも見事にお客さんをもてなすには十分なご馳走を用意した。それから、はじめてのお客さんがワンディの幼馴染でもあるフレディとミセス・エルガーでヘレナの顔見知りでもあったことがより楽しいひとときをもたらした。フレディもミセス・エルガーもこのもてなしに笑顔が絶えず、満足したようだ。もっと、長居したかったが本来の用事もあり、別れを惜しみつつ後にした。
フレディとミセス・エルガーを見送るとき、ふたりがアナが用意をしてくれていた紙袋を持つ姿を見てワンディは本当によかったと思った。ただ、商品をつくるだけではだめなんだ、お客さんが持ち帰るまでのことを考えないと・・・。「おばあちゃん、ありがと」ワンディはうしろで一緒に見送っていたヘレナに言った。「本当によかったじゃないかい。ちゃんとワンディの宝石を買ってくれる人がいる。うれしいことだよ。・・・これからもがんばらないとね」ヘレナは安堵の表情で言った。
もちろん、その後も想像していたとおり、雨の日はもちろんどんなに天気が良くても変わらず、お客さんの来ない日は何日も続いていた。それでも、双子のリリーとマリーは変わらず、遊びに来てくれていた。ふたりとはいろんな遊びをした。マーブルレースやフェイス・ザ・クッキーにネイチャー・ウォーク・ブレスレット。ワンディも小さい頃にはよくやっていた遊びでまるで自分まで子供になったような気分で楽しくやっていた。
ただ最近はよくリリーとマリーで言い合いをするようにもなっていた。将来大きくなったら、ワンディはリリーと結婚をするのか?それともマリーと結婚するのか?ということだった。「ワぁンディはリリーと結婚するもんね〜」リリーが言うと、「違うもん!マリーと結婚するよ。ねぇ、ワぁンディ〜」マリーが言った。こんな調子だ。なんとか、ふたりの機嫌を良くしようとするが毎度苦戦をするワンディであった。
今日もいつものようにリリーとマリーはワンディを取り合う状況になっていた。リリーはワンディのシャツをひっぱり、マリーは反対側のズボンをひっぱり、なんとか自分のものにしようと一生懸命だった。そこにリリーとマリーのお母さん、マルティネス夫人がひとりの訪問者をつれて来た。「これこれ・・・リリー、マリー、おやめなさい!」マルティネス夫人が言った。「本当にいつもありがとうワンディ・・・それでこちら、おなたのお店のお客さんだと思うの」
「あなた。フルージュというお店をご存知ざんす?」マルティネス夫人と一緒に歩いてきた女史がワンディに聞いた。その女史の髪は赤毛でかっちりしたカールが印象的で赤い帽子に長いクジャクの羽飾りが目に付いた。「え、ええ」ワンディはリリーとマリーの引っ張り合いの中で右に左にと体を揺らされながら返事をした。「どちらに?」女史は言葉短く、あたりを見渡した。マルティネス夫人はワンディからリリーとマリーを引き離すのに成功し、家へと連れ帰っていた。
「フルージュのお店はこちらになります」ワンディは庭小屋へ手を向けた。「?・・・私は宝石屋を探してますの」女史は目を大きく開き驚いたあと、きっぱり言った。「はい、その宝石屋のフルージュはこちらでございます」ワンディはやさしく受け答えした。「それじゃあ、わたしの勘違いざんす。失礼するざんす」女史はそう言って、うしろを振り向くとつかつかと歩き出した。女史は何かぶつくさと言いながら、15歩、歩いたところでピタっと止まり、またこちらに戻ってきた。
「いくつか聞きたいことがあるざんす。フルージュと言う宝石屋は他にあるざんすか?」女史が聞いた。「いいえ」ワンディは首を横に振った。「じゃあ、その小屋であなたがジュエリーを売ってるざんすか?」女史の質問が続いた。「ええ、そうです」ワンディはうなずいて返事した。「そのジュエリーはあなたが作ったものざんすか?」女史はやつぎばやに聞いた。「作ったのはロンドンの職人、タイラー・エリアソンです」女史は少し考え込むように持っていたハンドバックを指で小刻みに叩きはじめた。
「じゃあ、見せてくださる?あなたのジュエリー」女史はまだ何か疑っているような顔つきでワンディに言った。「ええ、ぜひご覧になってください」ワンディはそう言うと庭小屋の入り口へ女史を案内した。「たった、これだけざんすか?」女史は庭小屋へ入り、ジュエリーを見て言った。「今はこの4つだけざんす・・・いえ、4つだけです」ワンディは女史の言い方が身についてしまった。「たしかにフルーツをモチーフにしているジュエリーざんすね・・・」女史はひとりごとを言いながら、またハンドバックを指で小刻みに叩きはじめた。
「いいざんす。・・・すべていただくざんす」女史は最後にバンッとハンドバックをひとつ叩いて言った。「時間がないのですぐに包むざんす」ワンディはせっかちな女史に戸惑いながら、すべての商品を包み、女史に渡した。「ここからストーク・オン・トレントにはどれくらいかかるざんすか?」女史が去り際に聞いた。「ストーク・オン・トレントですか・・・」ワンディは返事しようとしたが女史は「やっぱりいいざんす。失礼するざんす」そう言うと留めてある馬車の方へそそくさと歩いていった。ワンディは女史を見送りながら、すべての商品を買ってもらったという、うれしい気持ちはまったく無く、なぜ僕の宝石を買ってくれたのか?という疑問だけ感じていた。
その疑問が解決したのは女史がすべての商品を買ってくれた日から2週間後、9月の終わりだった。学校が終わり、家路に着く最後の角を曲がると目の前には馬車の列ができていた。何事?と思いながら列の先に向かうと庭小屋の前でヘレナおばあちゃんは接客に大忙しだった。「ワ、ワンディ!」ヘレナはワンディを見つけると声を上げた。「たいへんだよ。たいへんなことになってるよ」ヘレナは商品の紙袋をお客さんに渡していた。
ワンディはまったく状況をつかめない表情でヘレナのところへ向かった。昨日までここはあまり人どおりのない、もの静かな場所のはずだが、今、目の前に広がるのは人気店に行列ができる光景そのものだった。「ああ、お客さん・・・今、順番に見てもらってますのでそちらで少しお待ちくださいな」ヘレナは上手にお客さんを誘導していた。「おばあちゃん」ワンディはヘレナに声かけた。「驚いたよワンディ、朝からずっとこんな感じだよ・・・あっ、はいはい」ヘレナは返事をしながら、庭小屋の中のお客さんに呼ばれ接客を続けた。
「どうやら、あんたの商品が新聞に載っていたらしいんだよ」ヘレナが振り向いてワンディに言った。ワンディはまだ状況が整理できていなかったがヘレナおばあちゃんと接客を変わることにした。「はぁ、はぁ・・・少し休ましてもらおうかね」ヘレナはそういって疲れた様子で家へと歩いていった。ワンディは庭小屋の中のお客さんからの質問に受け答えしながら残っている商品を見ると、ほとんど残っていないことに驚いた。
ちょうど同じころ、グランサムの駅からたまたま同じ電車で到着し、ワンディのお店を訪ねようとするふたりの人物がいた。ひとりはタイラー・エリアソンのお店で働くアナスタシア・ジェンキンス。アナはタイラーからそろそろワンディのお店の様子を見てきてはと言われ、ここへきたのである。そして、もうひとりはヘレナおばあちゃんの息子であり、ワンディのおじであるエドワード・コーウェル。彼の手には今回の行列のきっかけを作った新聞を握っていた。
ふたりは改札を出てしばらく歩いたところで出会った。「やあ、アナスタシア」エドワードは地図を見ているアナに気づいて声をかけた。「あら、コーウェルさん。こんなところで偶然ですね」アナは返事した。「どちらまで?」エドワードが聞いた。「今日はワンディのお店を見てみようと思って・・・」アナがそういうと「なら、わたしも彼のお店に行こうと思ってきたから、一緒だ。案内しよう」エドワードはアナと一緒にワンディのお店に向かうことにした。
「君も今朝の新聞を見てきたのかい?」エドワードは歩きながら、うしろに歩くアナに聞いた。「新聞・・・ですか?」アナはもちろん新聞を見ていなかったがほんの少しだけ考えをめぐらせてみたがわからなかった。「もし、まだご覧になっていないのらばおもしろいことが起きているかもしれないね」エドワードは通りすぎる馬車が角を曲がりワンディの店の方に向かっている様子を見ながら言った。
アナは何のことだかわからず、ただエドワードの後をついていくだけだった。「あそこの角を曲がればお店まですぐだよ」エドワードは曲がり角を指差した。ふたりが角を曲がり、目にしたものはワンディが見たものよりも長い行列だった。「えっ?どうゆうこと?」アナは目を丸くして、思わず声が出た。「やはり、そうか!」エドワードも声を上げ、駆け足で馬車が並ぶ行列を横目にお店の方へ走り出した。
「あはは!・・・ワンディ!」お店に着いて、エドワードは慌しく接客をしているワンディを見つけ声をかけた。「すごいことになっているじゃないか!」「エドワードおじさん」ワンディはあまりの忙しさでもうどうしていいかわからない表情になっていた。「もう、いったいどうなっているのか・・・」「・・・うそでしょ」遅れて到着したアナが目の前の状況を見て思わずこぼした。
「何か僕に手伝えることはあるかい?」エドワードはワンディに声をかけた。「あ、いえっ・・・実は今、お渡しした商品が最後の商品でして・・・」ワンディはそう言って、お客様へ挨拶した。「すると、すべて売り切れたのかい?」エドワードが言った。「もうないのか?」うしろで待つお客さんがエドワードとワンディの会話を聞いて声をあらげた。そのことはうしろ、またうしろのお客さんにと商品が残っていないことが伝わっていった。
何人かのお客さんがワンディを取り囲むように詰め寄る様子はうしろで待つお客さんをさらに不安にさせた。気がついたときには10人近くの男女の大人が集まって不満をぶちまけていた。「あ〜みなさん」エドワードはワンディの横に立ち、たくさんのお客さんを前にして話をはじめた。「今の状況についてご説明させていただきますので少しの時間をください・・・ワンディ、アナスタシアこちらにいいかい?」
エドワードはお客さん達と距離を取ったところでワンディとアナと話し合いを設けた。まず、ワンディに今回どれくらいの商品が売れたのかを確認すると次にアナへ質問した。「アナスタシア、今回作ってくれた商品の倍・・・いや、5倍つくるとしたら、今日は9月25日だがいつぐらいにできそうかな?」「えっ?」アナは困った表情を見せた。「それは私ではわからないわ・・・」
「アナスタシア」エドワードはもう一度アナに問いかけた。「目の前のお客さんを見ただろ?このままでは到底納得していただけないだろう。制作の費用はわたしがすべて出す。だから、次に作る商品がいつまでにできるのか?今、君がここで判断をしてくれないか」ワンディはエドワードとアナのやりとりを真剣に見ていた。「うっ、そっそうね」アナはタイラーの了解なしにはこの判断は出来ないと思ったがこの状況を見て考え直した。「1・・・1ヶ月見てもらえればなんとかするわ」
「アナスタシア!・・・ありがとう」エドワードはアナの手を両手で握った。「みなさん、お待たせして申し訳ありません」エドワードはすぐにお客さんの前に戻り、まず頭を下げた。「今回、ご用意した商品は残念ながら先ほどのお客さんですべて売り切れとなりました」一斉にお客さんたちからため息が漏れた。「ですが聞いてください」エドワードは続けた。「次にこちらのお店に入荷するのは11月15日を予定しております。・・・そう、つまり、クリスマスのプレゼントには十分に間に合うということです。ぜひ、楽しみにしてまたお越しください」
エドワードはそう言ったあと、ひとりひとりのお客さんのもとへ向かい、再度のお詫びと来店の約束を取り付け、帰り道を丁寧に説明してまわった。ワンディもエドワードのそばで一緒に感謝の気持ちで挨拶してまわった。
「エドワード、来てたのかい?」ヘレナが家から戻ってきた。「やあ、母さん」お客さんを見送り終え、エドワードがヘレナに言った。「思っていた以上のすごい状況になっていたね。僕も今朝の新聞を見て、驚いて来てみたんだ」「いったい、新聞に何が載っていたんだい?」ヘレナが聞いた。「母さんもまだ知らないんだ?・・・これを見て」エドワードは新聞を庭テーブルの上で広げて見せた。
その新聞をヘレナ、エドワード、アナそしてワンディで見入った。「アメリカの人気女優、ヴィヴィアン・カーリーがワンディのジュエリーを身につけた写真が載っているんだ。・・・そして、ここ。・・・”いつもはスポンサーであるゴルディールのジュエリーを身につけていると思うが今日、身につけているのはどちらのものか?”という記者からの質問にヴィヴィアンは”私が遠くで仕事をする時のオフの日はその国やその街で作られたものをよく身につけます」
「・・・今日、身につけているピアスやこのネックレスはグランサムのフルージュという宝石屋から買ったものです。フルーツをモチーフにしていて、とても可愛らしくて気に入っています。すばらしい職人がひとつひとつ手作業で作っていると聞きました・・・こう、彼女は言っている。だから、みんなこれを見てここへ来てるんだ」
「あっ、この人!」ワンディがヴィヴィアンの写真を指差した。「この人、知っています」ワンディが指を指したのはヴィヴィアンではなく、その横で一緒に写る、長いクジャクの羽飾りがついた帽子をかぶる女史だった。「2週間ほど前にすべての商品を買ってくれた人です」ワンディが言い切った。「だと、すると彼女はヴィヴィアンに頼まれて、お店に買いに来てくれた秘書かもしれないね」エドワードがワンディに言った。
「でも、どうやってこのお店のことを知ったんでしょうか?」ワンディはエドワードに聞いた。「それはわからない。・・・だが、今、君は幸運なことがおきているんだ。この流れは大切にしなくてはいけない・・・アナスタシアには無理を言ってしまったが」エドワードはアナに気をかけた。「アナ・・・」ワンディもアナに声をかけた。「来てくれて、ありがとう。それから、無理を聞いてもらったことも・・・」
「ホント、わたしも・・・」アナは話しはじめた。「今日、こんなつもりで来たんじゃないんだけど・・・まさか、庭小屋で宝石売っているなんて知らなかったし、ヴィヴィアンがあんたのジュエリーを身につけてることも信じられないし・・・でも、さっきまでのすごい行列見て・・・もう、何がどうなっているのか・・・でも、ワンディ。あんた本当に運がいいのよ」
「ワぁンディ〜、あそびましょ〜」夕方、いつもの時間になり、双子のリリーとマリーが両手いっぱいにお人形さんを持ってやってきた。「あ〜、この子たちは」ワンディがたじろいながらエドワードとアナに紹介した。「お隣からよく遊びにきてくれる双子のリリーとマリーです。・・・きょぉうはなにしてあそぶのかな〜?」「きょぉうはね〜、このお人形であそぶの〜」リリーが言った。
「ふふっ、じゃあ、この子たちがそうじゃないの?」その様子を見た、アナが微笑みながら言った。「ねえ、幸運の女神ちゃん」それを聞いたエドワートとヘレナもつられて微笑んだ。「おねえちゃんもいっしょにあそぼ〜」マリーはアナに人形をひとつ渡しながら言った。「おねえちゃんはお母さん役をやってくださ〜い」「えっ、わたし?・・・」アナの顔が強烈に引きつっていた。「いや・・・・・・無理」
© 2022–2026 Tadahiko Sakai. All Rights Reserved.Story and characters: Fruje
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