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第7章 ジュエリー・デザイナーズ・コンテスト(2025/02/12 18:21)

「さあさあ、急いで急いでコンテストがはじまるまで、もう1時間切っていますよ」ゴルディールの付添人、きつね顔のハンス・ホプキンスは手を叩いて、会場の準備に大忙しだ。「あーーっ、そこ!テーブルがずれています。きっちりとL字形に揃えるようにとちゃんと指示書に書いていますよ。えーーっと、それから、そこのあなた・・・」ハンスはテーブルの上でコンテストの作品を並べている男を指さした。

「わたしでしょうか?」その男は人差し指を自分に向け、ハンスに聞いた。「そうです、あなたです。あなた、何か間違いに気づいていますか?」ハンスはその男の目の前まで近づき、下目遣いで言った。「いえ、わたしは指示書に書いてあるとおりの順番で並べて・・・」「違います!」男の話を遮り、ハンスは大きい声を上げた。

「なぜ、あなただけ手袋をせず、素手でこの作品を触っているのでしょうか?指示書の下の注意書きにちゃんと・作品を・触るときは・手袋着用・と書いているでしょうが!・・・わたしには到底、理解できません。支配人!・・・支配人!!!」ハンスは指示書を数回、指で叩いたあと、ホテルの支配人を呼んだ。

「はいはいはい、ホプキンスさんどうされましたか?」受付の準備をしていたホテルの支配人はあわただしく小走りでハンスのもとへと駆け付けた。「えーーっと、今、ちょうど受付の準備はできております。そして、コンテストに出場される方やメディアの方々も多数、お越しにならておりますがいかがなさいましょうか?」ハンスの怒っている表情を見た支配人はハンカチで汗を拭きながら、前向きな情報を伝えた。

「そうですか、それはけっこうです。メディアの方々のみ先に入室していただいてかまいません。指定してある場所へと案内してください。そのほかの方は時間になったら会場入りさせてください。・・・それから、支配人。あの方には・・・」ハンスはそう言って素手で作品を触る男を指さした。「申し訳ございませんがすぐに退室してもらってください。宝石を素手で触るような方にはこの場にいてほしくありませんからね」

「はっ、それはそれは大変申し訳ございません」支配人はハンスにお詫びし、すぐにその男を退室させた。「それで、ホプキンスさん。ゴルディールさんはいつごろお見えになるのでしょうか?」支配人は聞いた。「そうですね、ゴルディール様はもう、まもなくシャーデリア様と一緒にご到着されます」ハンスは時計をチラッと見たあと、入り口のほうを見ながら答えた。「大切なものを持ってお越しになられますので警備は抜かりなくお願いいたします」

「ハンス!ハンス!」コンテスト会場の横にある控室の扉が勢いよく開いて女性が出てきた。「あ〜っ、ハンス。そこにいるざんす」赤毛でかっちりしたカールが印象的で赤い帽子に長いクジャクの羽飾りをつけた女史こと、モニカ・クーパー。つまり、ヴィヴィアン・カーリーの秘書である。モニカはあごをつんと前に尖らしながらテンポよく歩いてきた。

モニカはハンスの横にベタづきし、色めづいた目でハンスを見ている。「あっ、では、わたしは受付へ・・・」支配人はハンスにそう言うと、受付へと去っていった。「モニカ、どうしましたか?」ハンスもうれしそうな目でモニカを見ている。「う〜ん、うちのヴィヴィアンが緊張をやわらげるためにシャンパンをと言ってるざんすの・・・」「それなら、すぐにご用意致しましょう。おい、そこのお前・・・」ハンスは通りすがりに歩くウェイターに声をかけた。

「今すぐ控室にシャンパンとグラスをふたつ、それからチェイサーも一緒に持っていきたまえ」そのウェイターは笑顔で返事をしながらも、モニカがハンスの手を強く握りしめるのを見て、うしろを向いて呆れた表情を見せた。「それでハンス。わたくし、今日の夜、時間あるざんすよ」モニカの唇はもうハンスの頬にくっつきそうだ。「そうかい、わたしも今日はそう思って・・・」

「ジョン・ゴルディール様、ご到着です!!!」受付口から大きな声が聞こえてきた。ハンスのたるんだ目は一瞬で仕事の目となり、モニカと距離をとったあと、入口へと歩き出していた。「うん、もう!」モニカは唇をかみしめている。ハンスは振り向きざまに「モニカ、今日の夜9時、ホテルのロビーで」そう言うと、「あ〜ん、ハンス」モニカは欲を解放した声を出した。「ん、何見てるざんす」こっちを見ていた、別のウェイターに一喝したあと、モニカは控室へと戻っていった。

ホテルの入口には10名を超える警備の男が立っている。そのまわりを観衆が囲んでいた。まず、大宝石商ジョン・ゴルディールは集まっている観衆をギロっとにらみつけて、馬車から降りてきた。その次は大いに着飾ったドレス姿の女が降りたった。「お〜っ、シャーデリア!」観衆のひとりが声を出した。「あらっ?わたしのことを知っているなんて、うれしいわ」ゴルディールの娘、シャーデリア・ゴルディールは観衆に向け、投げキッスを見せた。

そして、最後に降りてきた老人は大事そうにふたつの箱を胸元に抱えていた。「ハンス!ベルケムを手伝ってやれ」ゴルディールは走ってくるハンスを見つけた。「かしこまりました。・・・お〜っと、ベルケムさん大丈夫ですか?どちらかの箱をお持ちいたしましょう」ハンスがそういうとベルケムはひとつの箱を渡した。「それで、ハンス、準備の具合はどうだ?」ホテルの支配人に案内されながらゴルディールを先頭にシャーデリア、ベルケム、ハンスとつづき、会場の控室へ向かって歩いている。

「大丈夫でございます。問題なくすすめております。それから、ゴルディール様、本日の審査についてでございますがバーンズ校長とドロレス校長、そしてベルケムさんということでよろしかったでしょうか?」ハンスは汗でみだれた髪が目に入っていて、目をシバシバさせながらゴルディールに聞いた。「いや、ベルケムは体調が悪い。休ませてやってくれ」「あら、お父様。それならわたしがやりたいわ。だって、わたしが選ぶことが本来なら当然といえば、当然ですもの。ねえ、ハンス」シャーデリアが言ったところでゴルディールたちは控室へと入っていった。

「お〜〜、ヴィヴィアン!」豪華に着飾った、アメリカの人気女優ヴィヴィアン・カーリーがゴルディールをお迎えした。「今日はいつにもまして美しいではないか」「あら、ゴルディールさんこそ、とても素敵ですわよ」ヴィヴィアンが上品に振舞う横で秘書のモニカはハンスと目が合い、ウインクひとつ見せた。「ゴルディールさん、うちのヴィヴィアンは衣装・メイク・そして心構え、すべてがパーフェクトざんす。あとは虹の宝石を身に着ければ、最高のパフォーマンスをさせていただくざんす」・・・


着々とジュエリー・デザイナーズ・コンテストの準備が進むなか、ホテルの東側入口にはワンディやダニエル、エルサを待つ、アナが腕を組んで立っていた。道を挟んでアナから見えるところに小さな人だまりがあり、ダニエルとエルサは同業のデザイナーたちから囲まれていた。エルサはアナに気づいて手を振っている。アナはあのふたりは致し方ないと見過ごしていたがワンディに限ってはすでに約束の時間を30分も過ぎていたからおかんむりだ。

ようやくしてダニエルとエルサはゆっくりとアナがいるほうへと歩きだしていた。そして、1本横の路地からワンディはあたりをきょろきょろとしながら出てきた。「あっ、もう!いた。ワンディ!こっちこっちよ!」アナはワンディは見つけ、大きく手招きしながら声を上げた。ワンディもアナの声に気づいて手を上げようとしたまさにそのとき、「どけっ、じゃまだ!」5人の男たちがワンディを派手に突き飛ばして駆けてきた。

アイタッタタタッ。ワンディは地面にバタンと倒れこんでいる。ワンディを突き飛ばした男たちはコンテスト会場のあるホテルを見ていた。「あ〜〜〜っ!!!あんたっ!!」はっきりと見覚えのある男の顔を見つけて、エルサは聞こえるように言った。ほぼ同時にダニエルは倒れるワンディを目にして走り出していた。「唾吐き男じゃないの。何やってんのよ、こんなところで」

「これはこれは、お久しぶりで」顔中にそばかすがある唾吐き男は帽子に手を当て、エルサに向かって軽く会釈をした。「ジャンっ!急がないと」うしろの男が唾吐き男のジャン・ウォルトをせかした。「つづきは会場で、ダニエル君のアシスタントさん・・・っぺ」ジャンは小さく唾を吐いて他の男と一緒に道路を素早く渡ったあと、ホテルの正面玄関へと去っていった。「ふんっ、誰がアシスタントよ」エルサは鼻をひとつ鳴らしてぼやいた。

ワンディはダニエルが駆け寄ってきてくれたころにはすでに別の人物に支えられながら立ち上がっていた。「やあ、ダニエル」「大丈夫そうだね。ワンディ」ワンディとダニエル、ふたりそろって笑顔を見せた。「ダ、ダ、ダニエルって・・・まさか」ワンディが起き上がるのを手助けした人物が手を震わせながらに言った。「キャーーっ!はじめまして、わたくしビル・クラインと言います。あなたの大ファンです。握手をお願いしても?」

ビルの見た目は男性だが話し方は女性そのものだった。「ええ、もちろん。喜んで」ダニエルはやさしく微笑んだあと、ビルと握手を交わした。「オーマイガっ!わたくし、今日、あなたに会えたことは一生忘れることはありません。あなたに会うためにアメリカからやってきたんですもの・・・」「ダニエ〜ル!」エルサは、コンテストが始まる時間が差し迫っていることを腕時計に指をあて伝えた。

「ワンディ、もう時間のようだから、急がないと。え〜っと、君は・・・」ダニエルはビルを見た。「え〜もちろん。わたくしもコンテストに参加しておりますわ」ビルはパチリとした目でダニエルに返事した。ワンディ、ダニエルそしてビルたちは車をよけながら上手に道路を渡って、アナとエルサに合流した。「アナさん、ごめんなさい」ワンディはアナに一言あやまるが聞いてもらえなかった。「アナ、聞いて、さっき走っていった男たちの中に前に話した唾吐き男がいたのよ。それで・・・・・」エルサの会話はホテルに入っても止まらず、そのまま受付をすませたあとようやく会場入りした。


ジュエリー・デザイナーズ・コンテストの会場はイギリスを代表する高級ホテル、ルッツ・ロンドンでの開催である。貴族や大富豪などの上流階級が利用するだけあって、ドレスコードがとても厳しいのはヘレナおばあちゃんから聞かされていた。完璧にスーツ姿を着こなすダニエルとは打って変わって、ワンディはたしかにドレスコードに必要なジャケットとネクタイ、そして今朝磨いてきたばかりの革靴を身にまとっていたがお洒落に必要なセンスはどこにもなかったようだ。

そんなワンディも大人の仲間入りを味あわせてくれるかのようにホテル内の空間は特別なものを感じていた。目の前にはたくさんのウェイターがウェルカムドリンクを配っていたり、耳に入ってくる音楽はクラシックの生演奏でとても心地よいし、うまく伝えられないけどいい香りがそこらじゅうに広がっていて、感じるものすべてが見事に調和されていて田舎者のワンディは大きく息をしながらただ感動していた。

それから間もなくして音楽が止み、一人の男性がステージに立った。ざわついていた会場は徐々に静まりかえりその男性に視線が集まっていき、静寂な時間を作り出していた。どうやら、その男性は指揮者のようだ。会場の人たちへ軽く一礼したあと、小さなオーケストラに向けてすうっと両手を上げた。一瞬のためをつくったと思ったら、トランペットの伸びのあるファンファーレを会場に鳴り響かせた。



その音楽は心が躍りだすほどに素晴らしく、ワンディの目線にうつる記者たちも互いを見つめあい今まで聞いたことがないこの音楽に驚いていた様子だった。この音楽は後日の新聞でわかったがソビエト連邦のショスタコーヴィチが作曲していて、まだ未完成であった祝典序曲のワンフレーズをオープニングに使ってほしい旨を知人から映画の音楽プロドューサーを介して、ゴルディールへ依頼されたものだった。

「レディース、アンド、ジェントルマン!ようこそ、素晴らしきこの日にルッツ・ロンドンへお集まりくださいました。本日はこれからのジュエリー業界を大いに盛り上げてくれる、華々しい未来の可能性を秘めた若きデザイナーたちのショータイムでございます。今回は約10か国、50名を超えるデザイナーたちが参加しており、その作品の数は300にも及ぶものとなっております・・・」

司会者がステージを右に左に派手なジェスチャーを交えて、開演に先立っての挨拶をしている。「・・・また、審査方法についてですが1次・2次審査はすでに終了しており、本日、会場に並べられている作品が最終審査に残った作品でございます。最終審査を行うのはフランスから名誉あるジュエリー専門学校であるBJFのバーンズ校長、イギリスからはこちらも名門中の名門、ジュエリー専門学校CSEのドロレス校長、そしてゴルディールからシャーデリア嬢の3名で行われます」

「なお、最終審査の方法ですが審査員から1作品ごとに”イエス”か”ノー”を付けられます。3名の審査員すべてのイエスが付いた作品を1ポイントとして、2ポイント以上を獲得したデザイナーが表彰されることになります」「えっ、そうなの!」アナは顔に手をあてた。「・・・最後になりますが、今回の主催者であるジョン・ゴルディール氏より重大な発表がございます。それではご挨拶をお願いいたします」

大宝石商ゴルディールがステージ袖から見えた瞬間に大きな拍手に包まれた。記者やカメラマンが前に前にとあわただしく動いているのがみえる。ワンディはグランサムの宝石屋で見た感じの悪い大男はこんなにも拍手喝采を浴びるほどの人なんだと思ってその様子を眺めていた。「あ〜みなさん、本日はお集まりいただき重ねてお礼を申し上げます・・・」ゴルディールは堂々した振る舞いを見せながら挨拶をはじめた。

「本日のジュエリー・デザイナーズ・コンテストの開催に先立ち、まず、メディアの皆様には、ご覧なっていただきたいものがございます。それじゃ、入ってきてもらおうか・・・」ゴルディールがそういうとは豪華なドレスを着たシャーデリア・ゴルディールとヴィヴィアン・カーリーが登場し、ゴルディールの登場以上の歓声と拍手が起こった。ふたりはゴルディールを挟むようにして静かに立ち、品ある笑みを浮かべるその姿はとても美しかった。

前にいる記者たちはすでにシャーデリアとヴィヴィアンが身に着けていたネックレスが何であるかに気づいた様子だった。カメラのフラッシュも一斉に光った。ゴルディールはメディアの反応がとてもうれしくニヤついていた。「さあ、みなさん。もう、お気づきと思うが本日、4大ジュエラーであるこのゴルディールが発表するのはシャーデリアが身に着けている青色の虹のダイヤにくわえ、ヴィヴィアンが身に着けているダークネイビーの虹のダイヤを手に入れたことを今、ここでお伝えさせていただく!」

新しい虹のダイヤの発表にメディアはもちろん若手デザイナーたちからも歓声があがった。両手を大きく広げるゴルディールはその歓声を体全体でうけとり興奮が最高潮になり、エクスタシーを感じていた。「ご説明させていただきます。・・・ゴホンッ」ステージ袖からこの会場にゴルディールと一緒にやってきた老人が話をはじめた。彼はゴルディールのダイヤモンドブローカーの責任者であり、研磨師としても名職人でもあるオール・ベルケムである。

「このダークネイビーのダイヤは1925年に南アフリカのプレミア鉱山で78カラットの原石として発掘されました。当ジュエラーが取得したのは4年後の1929年、その後、アントワープにて3年かけて研磨し、最終的にアンティーク・クッションカットの55.48カラットになっております。このダイヤは正式に虹のダイヤと承認していただくため、これより数年をかけ、各国の王室にご覧いただく予定で・・・ウッ、ゴホッ」ベルケムの顔色はどんどん悪くなっている。

「ベルケム、もうよい。下がっておれ」ゴルディールは話をさえぎり、ハンスを呼びつけてベルケムをステージからおろした。・・・あ〜、詳しい資料についてはこのあと皆様にお渡しするとして、今、このジュエリー業界はじつにくだらん!・・・そう、じつにくだらん!・・・まさに、じつにくだらんもので溢れかえっておる」

「4大ジュエリーのトップであるはずのシャエル・ド・エーの作品はどうだ、60歳をこえた経営者の考えはもうすでに時代遅れで何の刺激もないではないか。昨年、ようやくそのことに気づいて若手のデザイナーを起用したようだがもうすでに遅すぎる!これからのジュエリーは我々、ゴルディールが先頭に立って、魅力的な商品をお客様にご提供していく!」

「そこでだ、もうひとつの発表をする。それは、新しく”シャーデリア”のブランドとしての立ち上げである。彼女はわがゴルディールのデザイナーとしてこれまで大いに活躍してきた。しかし、我々はもっと幅広い層のお客様に向けて新しいことをやっていかなければならない。シャーデリアは若い世代に向けたジュエリーやバックなどを取り扱い、将来的には衣類などもやる予定だ。ぜひ、楽しみにしていただきたい」

「そして、今回のコンテストの表彰者にはシャーデリアのジュエリーデザイナーとして、ぜひゴルディールのグループに迎えいれたいと考えている。どうだ、いい案ではないか」若手のデザイナーたちはざわついている。「今日は新しい虹のダイヤをようやく皆さんの前で発表できてじつに気分がよい。だから、特別に最後の発表もしておこうではないか」

「それは、残された虹のダイヤ、つまり緑のダイヤについてだ。実はこのダイヤもすでに我々はもう見つけておる。・・・びっくりするかもしれんが緑のダイヤはここイギリスに100年以上も前から存在しておる。・・・話は以上だ」「緑のダイヤがこのイギリスに存在しているなんて、本当なんですか?・・・もっと!、もっと具体的に教えていただけませんか!」記者のひとりが興奮して声を上げた。

ゴルディールは人差し指を横に振り、ノーのサインを出してステージを後にした。「さあ、ゴルーディル氏からのご挨拶は以上となります」司会者は進行を進めた。「これより、最終審査を行います。デザイナーの方、メディアの方は別室のレストランにてお食事のご用意ができております。そちらに足をおすすめくださいませ。そして、2時より結果発表をさせていただきますので2時になりましたらこの会場にお戻りくださいませ・・・」


場所が変わり、ロンドン郊外の弁護士事務所に務めるエドワードに一本の電話が鳴った。「コーウェルさん、グランサムのバリーさんというかたからお電話が入っています」「バリー?・・・はい、お電話かわりました。・・・これはこれはバリーさん、たいへんお久しぶりです。・・・ええ、私は変わりなく元気です。今日はどうなされましたか?・・・ええ、今、少しなら話ができますが・・・はい、はい・・・あっ、そうなんですね。あの、お家を当分、開けられるということですね・・・わかりました。それでは私のほうでも少し考えさせていただき、近々またご連絡させていただきます・・・ガチャン」

エドワードは電話を切ったあと、窓枠に手をつけしばらく遠くを眺めていた。「コーウェルさん大丈夫ですか?」その様子を眺めていた受付の女性は心配して声をかけた。「ああ、すまない。何でもない。困ったことではないんだ。・・・むしろ、その反対で、追い風になるような、またそんな新しい風が吹き始めている気がして、それで今、考えていただけなんだ」エドワードはそういって木の枝が揺れている大きな木に目を向けた。


「よお〜し、みんなグラスはそろったな」ルイはグラスを片手にみんなを見渡した。「ルイ兄!まだです!」ピエールはルイの横をしゃがみながら入ってきた。「ドニさんすいません、ヤニックに渡してください」そういいながらドニにグラスを渡し、ヤニックにゴメンのジェスチャーをして見せた。「おい、ピエール、早くしてやれよ」ルイが言うと「ルイ兄、すべての用意ができました」顔には先日の喧嘩でできたアザだらけのピエールが隣に立つロムジーを肘でつつきながらに言った。しかし、ロムジーの顔あざはピエールよりもひどかった。

「じゃあ、はじめるか。今日はこのタイラー・エリアソン・ジュエリーからと言ってもいいだろ、ダニエルにエルサそして、アナの3人が見事、ジュエリー・デザイナーズ・コンテストで入賞したんだからな。ささやかではあるがそれを祝して乾杯をしたい・・・オヤジからも何か一言・・・」ルイは横に腰かけているタイラーに声をかけた。「わしからは何も、つづけてくれ」タイラーは照れくさそうに断った。

「じゅあ、みんな!ダニエル、エルサ、アナにチアーズ!」ルイの掛け声でタイラー、ダニエル、エルサ、アナ、ピエール、ロムジー、ドニ、ヤニック、そしてワンディはその喜びを分かち合うように乾杯をした。「おめでとう、ダニエル」タイラーはダニエルを称え、「おめでとうお互いにね」アナとエルサはにっこりとグラスをかさねた。「よ〜し、今日はたくさん飲むぞ〜!いいんですよね、ルイ兄」ピエールはロムジーの肩に手をまわした。

「いや〜、今日はすごい日になった」ルイはぐいぐいビールを飲んでいる。「ダニエル、やっぱりお前はすごい。5作品すべてが満票の5ポイント、文句なしの最優秀の入賞者だ。アナとエルサも2ポイントずつで見事だったな。ワンディについては・・・まあ、仕方がない、ルールはルールだからな。だな」

「ワンディ、悪く思わないで」アナはワンディのもとに歩みよった。「審査方法を知らなかったのよ。1つの作品では入賞の対象にならないなんて。本当に悪かったわ。・・・でも、あなたの作品も最終審査にまで残っていたことは本当にすごいことよ。自信もって」「アナさん、とんでもない。そんなことまったく気にしていませんよ。僕はあの素晴らしい会場でみんなと一緒に参加できただけでもうれしいですから。アナさん、本当におめでとうございます」

「それでも、今回のコンテストはすごかったですね」ドニはグラスを回しながらに言った。「最終審査の作品は正直どれも目新しく、若いデザイナーたちの想像力には圧倒されました。とくに、ビル・クラインの作品はとても斬新で・・・」「お〜っ、あいつの作品は目を見張るものがあったな。5作品中、4作品満票で4ポイントだからダニエルに次いでのポイントで実質の2位だもんな」ルイが顎に手をかけ考え深げに語った。

「どこのジュエラーのデザイナーなんですかね?」ピエールが聞いた。「親がアメリカで宝石店をやっているそうです」ワンディが言った。「町ではちょとした有名店らしく、お店の宝石は彼がデザインしているそうです。今回のコンテストをきっかけにもっと大きな仕事ができればとも話していました」

「彼は本当に素晴らしい才能の持ち主です」ダニエルも話に加わった。「バーンズ校長もすぐに彼のすごさに気づいてゴルディールに話をしていましたから」「それなら、そんな逸材、ゴルディールも見逃すはずないですよね。う〜ん」ドニは腕を組んで大きく頷いた。ビル・クラインのすごさはエルサをのぞいて、みんな納得していた。「ふ〜ん、そんなにすごかった?私はそうは思はないけど」エルサの悔しさは今回もダニエルに大きく差を開けられたことにあった。

ロムジーは席を立ち、エルサのグラスに酒を注いだ。「ありがとう、ロムジー。・・・えっ?、気にするな、君の作品の魅力は誰にも負けていない・・・ふふっ、うれしいわ、そう言ってくれるのはロムジーだけよ」エルサはロムジーにグラスを向けた。「まあまあ、気持ちはわからんでもない。でも、お前の入賞に張り合うように喜んでいるやついたけど、あいつは誰だ?」ルイはエルサに聞いた。

「ふんっ、いつも唾をぺっ、ぺっって、そこらじゅうに吐くから唾吐き男って呼んでるけどルヴァイスのデザイナーみたいね。彼も同じ2ポイントで入賞したことも悪夢みたいだわ。本当に信じられない・・・でも、そのあとすぐにアナの入賞が決まった瞬間、みんなであいつら以上に喜んでやったから気分がよかったわ」その様子を思い出し、みんなで大笑いした。

ジュエリー・デザイナーズ・コンテストの入賞者は全部で5名だった。1ポイント獲得者も数多くいたがワンディの作品はバーンズ校長、ドロレス校長からイエスがついたがシャーデリアは”ホント、つまらないわ!”そう、言いながらノーをつけられ、ポイント獲得者とはならなかった。しかし、今大会で無名の逸材と呼ばれるビル・クラインからこっそりと”あなたの作品はとってもユニークで愛を感じるわ”とほめてもらっていたのが唯一の救いだった。

お祝いの会は夜遅くまで続いた。先陣を切って酔っぱらったピエールはみんなに酒を進めてまわっていたが足元ふらつき、ヤニックの顔にお酒をぶちまけたり、アナの前ではお酒の力を借りて告白していたりと盛り上げ役として十分な仕事ぶりを見せていた。しかし、エルサも酒が入ってからは負けていなかった。ここぞとばかりにダニエルに絡んだり、ワンディに悪態をつく姿はみんなから笑いを誘った。

「それではわしはひと足先に帰らせてもらうよ」ほんのりと赤ら顔のタイラーはそう言うと席を立った。「うん、オヤジ、送っていこうか?」テーブルに肘をついて寝かけていたルイはよだれを拭きながら言った。「心配いらん、大丈夫だ。じゃあ、ダニエルにエルサ、あらためておめでとう。気をつけて帰るんじゃぞ。シャルロットとアナエルによろしくな・・・それから、アナとルイ、明日は昼からでいいからな、みんなと楽しんでやってくれ・・・おお、ワンディ、忘れておらんぞ、追加分の商品は近々、お店に持っていくから。それじゃ」


タイラーはお店を出て、夜風を気持ちよく感じながら歩いていた。お店が見えないところまできたところでふと、空を見上げて星を眺めていた。「これからどうなるのかね?」タイラーは星空のだれかに語りかけながら、旧友であるバーンズ校長との会話を思い出していた。

ーーー「やあ、タイラー久しぶりじゃないか」「おお、バーンズ来ておったのか?」「ああ、ゴルディールに頼まれて、審査員をやらさているよ」バーンズ校長はうしろに手を組み、しれっとした顔で答えた。「そうかい、君にぴったりの役じゃないか。そういえば、今日はダニエルやエルサも来ていると思うがもう、あったのかい?」タイラーはバーンズ校長の肩に手をかけながら聞いた。

「ああ、ちょうどさっき話をしてきたところだ。ふたりとも、うちの学校を出てからそんなに経ってもないのにもう立派なデザイナーになっていて、正直、驚いているよ。まあ、設立以来の自慢の卒業生だから、当然といえば当然なんだがね・・・。ところで、エルサから聞いたよ。タイラー、何でもまったくの、ど素人がデザインしたジュエリーを作っているって、本当なのかい?」

「ど素人?あはははははっ」タイラーはバーンズ校長の質問が実に的を得ていたのでおかしかった。「・・・すまんすまん、バーンズそのとおりだ。ど素人の子の作品を作っているよ」「たしか、ワンディ?という子だね。1作品出ていた。アナの作品の中にひとつだけ混じっていたから何だろうかと疑問に思っていたんだ。しかも、奉仕でやっているそうじゃないか、一体どういうことなんだタイラー?」バーンズ校長は理由が聞きたくてうずうずしている。

「バーンズ、少し落ち着いてくれ」タイラーはあまりみない興奮気味のバーンズ校長を面白がった。「実はアリスから聞いていたんだ」「えっ、アリスの占いなのか?」「ああそうだ、あの子とはじめて出会う1か月前にアリスに呼ばれてこう言われたんだ。”あなたの星が輝きだしている。1か月後にあなたの力を必要とする青年が現れる。その青年は精霊に選ばれし人物で虹のダイヤを持つ者”ってね」

「まさかっ!」バーンズはタイラーの両肩を強く握っていた。「もちろん、アリスの占いはすべてがあたるものではない。彼女も私同様に年を重ねてきたから昔ほどの力はもう残っていないだろう。だから、わしも半信半疑でそれを聞いておった。じゃが、ワンディと会って話をしたときに、私たちの心の中にはもう無くなっているものに気づかされたんじゃ。だから、こんな老いぼれの力が役に立つのならと思って、君が言う、ど素人の作品を奉仕で作っているわけだ」

「でも、ゴルディールは最後の虹のダイヤ、緑のダイヤもすでに見つけていると今日の挨拶で発表していたぞ、タイラー」「ああ、その話はわしも聞かされてびっくりしておるが、この先、どうなっていくのかはまったくわからんよ。ただ、今は楽しいだ、バーンズ。ワンディがこれからどう成長していくのか、この私は特等席で見られるんだからね」「にわかに信じがたい話ではあるが、君が元気でいることはとってもうれしいよ・・・」

「・・・実は今日、この会場にはベルケムも来ていたんだ、タイラー。話をする機会はなかったが少し、いやかなり重い病を患っているようだった」「そうか、彼も研磨師としての責務を果たすべく相当な労力を虹のダイヤに捧げたのかもしれないな・・・まあ、私と彼とは別々の道を歩むことにはなったが恨むことは一切ない。君もそうだろバーンズ」

「今はもう忘れてしまったがあの時の事を思い出したら・・・いけない、まだまだ私は成長していないな、アハハ・・・どうだい、タイラー、今日このホテルに泊まっているんだ。少しお酒でも飲まないか。久しぶりにあったんだ、いろいろと話したいことがある。リシャール夫人との関係がどうなったかお前も聞きたいだろ?ホテルで待ってるぞ・・・」

© 2022–2026 Tadahiko Sakai. All Rights Reserved.Story and characters: Fruje

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